「加奈子ちゃん。遅くなって悪かったねぇ。意外に忙しいんだよ僕」


零時を回っているにも関わらず佐久間は陽気な声で話し出す。きっと彼にはこれが日常なのだろう。


周囲から佐久間に“お疲れさまでした”そんな風な声が掛けられる。仕事にケリが付いて直ぐに掛けてくれたのだと理解した。


「いえ、お忙しいところ申し訳ありません…」


「ねえ加奈子ちゃん。もう少しさその口調はなんとかなんないかなぁ…涼ちゃんとか呼んでくれたらもっとスムーズにいくのにさ」


如何にも愉しそうに佐久間が電話の向こうで告げる。


「出来ませんよ。そんな急に馴れ馴れしいなんて…」


「そう?あのさ、加奈子ちゃん。仕事はもっと愉しまないとねぇ」


能天気に話す佐久間に腹は立つけれど、この男は心底そう考えているのだろう。


それでも振り回される私の身にもなって欲しい……


「あーなるほどね。そりゃバレるね、絶対。流石にジュンちゃんのメイクでも別人にはなれないもんな」