「その彼女は書けるのかね?noxの目玉になるだけの小説を――」


なんて男なのだろうか――此処まで先周りされると笑いが込み上げそうだ。


場にそぐわない行為だけれど、見せないわけにはいかなかった。画面を表示したままで谷女史の前にそっと置いた。


「常務…一分だけ時間をください」


常務は怪訝な表情を浮かべるが、谷女史の目は画面にくぎ付けだった。


無理も無い…全てを見透かした様に短いコメントと共に添付されたファイルが並んでいるのだ。


やがて溜息を小さく吐いて、谷女史が顔を上げる。


「彼女から――連絡が入りました。noxに掲載する原稿は短編でどうかと言っています。今、此処に六回分の原稿が添付されています…さわりだけでも問題なさそうです」


「そうか。まるでこの会議が覗かれているみたいなタイミングだな。まあ良い、君がそう言うなら大丈夫だろう」


「はい…」


「さて、これで会議は終わりだ。急な招集で悪かったな。谷くんと高邑くんは残ってくれ、まだ聞きたい事がある」


納得出来ない者も居る筈だった。それでも私と谷女史を残して静かに全員が退室した。


私達が残されると云う事は、真田常務の懸念は払拭されていないのだろう。


何を追求されるのかがわからない。私は立ったまま緊張して成り行きを見守る。


真田常務は皆が出て行ったドアに近づいて外を覗きこんだ。余程聞かれたくない事なのだろうと思うと直ぐにでもこの場を立ち去りたいと思う。


「全く…お前って奴は。これで良いんだろ?人使いの荒い奴だよ」


先ほど迄の毅然とした態度はそこになかった。真田常務は愉快そうに笑っていた。