部屋を出たその時だった。バイブにしてある携帯が振動した。まるで此方の様子を伺っているみたいなタイミングの佐久間からの着信だった。


「加奈子ちゃん?どう進展具合は」


「今、丁度役員やら他の部署の責任者達と会議中です。佐久間さんの出した条件について話し合いが始まります」


「そう…それじゃメールで手土産送るから、タイミング見計らって使ってね。じゃあ忙しいんで――」


背後から佐久間の名前を呼ぶ声が聞こえるのだから忙しいのは本当の事だろう。一方的に電話は切れて少しムッとする。


それでも、あの面々を待たせるわけにはいかない。下っ端の辛いところだ。


「お待たせしました」会議室へ駆け込み、全員分の書類を配って回る。


内容を読めば文句が出るのは間違いなかった。あえて佐伯に配るのを最後にして席に座った。


「おいおい…何で雑誌がコミックにまでしゃしゃり出んだよ」


流石に役員の前で怒鳴るわけにはいかないのだろう。それでも明らかな不快感を滲ませて佐伯が聞こえる様に呟いた。


すぐに反論したのは谷女史だ。


「佐伯さん、ちょっと失礼じゃない?それはあくまで先方の希望ですよウチが要求したわけじゃありませんからね!」


「へぇ、上手い事言って丸め込んだんだんじゃないの。大体このエージェントって何だ?誰だよこの佐久間って」