「さてと…谷君。彼らから色々相談をうけてね、まあ集まって話を纏める方が良いと判断して関係者を集めてみた。とにかく今の状況をかいつまんで話してくれんかね?」


口火を切ったのは真田役員だった。社内でこれまで言葉を交わした事すらない、元々はやり手の編集者でベストセラーを何本も出した伝説の人だと聞いた事がある程度だった。


「はい〈カヲル〉は携帯小説のサイトで人気の作家です。作家と言って良いかどうかは別として作品の閲覧数は延べで二千万…最早ブームと言っても良いかも知れません」


「それは凄まじいねぇ…」


真田が呆れ顔で呟いた。


「これ迄、沢山の出版社や掲載しているサイトから彼女に向けて出版のオファーをかけて来ましたが全て断っています。幾つかの大手がメールでのコンタクトには成功したのですが、実際に彼女に会えたのはうちだけです」


「ふむ、妙な話だな…何故だ?言いたくはないがうちは中堅と言っても良いだろう…まあ、それは良いとしてだな現状はどうなってるんだ?」


谷女史が立ち上がり真田役員の元へ向かう。佐久間が私に渡した会社宛の書面を真田役員の前へ置いた。


「ふむ、これが彼女の出した条件か…いや、エージェントのかな?悪いがね、誰かこれを人数分コピーしてきてくれないかね」


当然この中では一番下っ端の役目だろう。私は席を立ち書類を役員から受け取った。