「加奈子…一息ついたらさ、南の島でも一緒に行こうか。ビーチボーイとか良いらしいよ」


「そこまで墜ちたくない…」


「だよねぇ」


私と恭子の会話を杏奈がバカ笑いしながら見ていた。


「そうだ、加奈子。うちも乗っかるよnox。面白いの見つけたじゃないカヲルとか言う小説家。若いのが騒いでた、それで役員連中から広告出せってさ」


また〈カヲル〉だ。恐ろしい勢いで巻き込まれている気がする。


「ありがと、営業に伝えとく」


「そうしてよ。加奈子経由のがあんたの株も上がるでしょ。でさ加奈子、カヲルの絡みの佐久間って知ってる?」


突然、佐久間の名前が出た事に驚いた。横を見ると恭子が仕事モードで私を観察していた。


どう答えるべきか、一瞬迷う。佐久間が私をダミーに使う事は話せない。


正直、その事自体は笑い話で済む話だ。恭子も杏奈も業界の裏など幾らでも知っている。


私が怖いのは〈カヲル〉がnoxに書かないと言い出す事だけだ。


「もしかして映画のスポンサーの話?nox以外の事はよく教えてくれないんだけどね。他の事はディレクションする人がいるらしいとは聞いてる。その人が佐久間って言ったかも…」