春。
桜が道を囲む〝桜並木通り"。
その先にあるのは県で一番有名な"桜坂高校"。

中等部、高等部、ともに分けてあり、設備も十能な一番の学校。

私、廣瀬 涼佳(ヒロセ スズカ)は今日からこの学校に入学する。

遠くから引っ越してきたため友達と呼べる人は一人もいない。
だけど、正直楽しみにはしていた。
ずっと桜坂高校に憧れて勉強ずけの日々に受験も命をかけるほど頑張った。
成績、学歴、部活行事にも力を入れている学校。

私自体、部活やら行事やらそういったことが大好きなもので、ずっと前からここに入ろうと決めていた。


「…ぁれ、今何時だっけ…?」

桜並木通りの下でぼーっとしていたところ、やっと我に返る。
急いで本来腕につけている腕時計をみようとするが、生憎腕時計は見当たらない。3,4歩下がり少し背伸びをしてみる。その先に見えたのは高い時計台。桜坂高校の時計台だ。

「9時…20……ってえぇ!? 入学式終わって…っ」

家を出たのは7時前。
余裕のある時間帯に出、絶対に10分前にはつきそうな距離と時間帯。
今まで自分は何をしていたのだろうかと自問自答を繰り返す…暇もないくらいダッシュで桜並木通りを走り学校へと向かった。

通りが無駄に長く途中、上り坂まである。
それが結構急だったりもする。
ぐちゃぐちゃになる髪の毛なんか気にする暇もないくらい、足を大股に走らせる。

「はぁ…っはぁ…っ」

もう息切れが限界を越している。
上り坂でスピードが落ちる中、後ろからブー…っと車のような音が聞こえてくる。
さっと後ろを振り向く。

――ブォォン!!

後ろを振り向いたとたん何も見えないくらいに私の横を一台の黒い車がものすごいスピードで走り去っていった。

腰を抜かすくらいのスピードで少し違反ではないかと思うけど…。



ただ。
ただその車の中。

その車の中にいたある男の人と少しだけ、目があったような気がした。


その目はなんと綺麗で、青く光っている。
どんなに早くても、瞳の奥に自分がくっきりと写っているのがわかった。