それ以来、予備校では
なるべく
葉山くんに会わないようにして
過ごした。


「佐伯さん。」


名前を呼ばれて振り返ると
ニコニコと笑顔を浮かべる葉山くんが
立っていた。


「葉山くん…」



「俺のこと、避けてる?」



「うん。」



「普通、認めないよね?
面白いよね、佐伯さんって。」


クスクス笑っている葉山くんを
小さく睨む。


「あのね、葉山くん。
どうして蒼介さんに
誤解されるようなこと言ったの?」



「佐伯さん、からかうと面白いから。」


葉山くんは顔色ひとつ変えずに
楽しそうに笑っている。


「ひ、ひどい!」



「あのさ、佐伯さん、
彼氏のこと信じ切ってるみたいだけど、
あんまり信じすぎない方がいいよ?

佐伯さん、初めてでしょ?
男とつきあうの?

そんな指輪もらって
簡単にだまされちゃダメだよ。」


そう言って、私の左手の薬指を
指差した。



「ひ、ひどい!葉山くん!」



「あのさ、佐伯さん現文もとったら?
ボキャブラリー貧しすぎ。

さっきから
『ひどい…』しか言ってないよ?

はい、糖分補給のチョコレート。
佐伯さん、このチョコ好きでしょ?
じゃ、またね。」



「………。」



手のひらに乗せられた
小さなチョコレートをみて
ため息をついた。



……あれ?

でも、私がこのチョコ好きなこと、
どうして
知ってるんだろう…