「え!?春義君とるー喧嘩しちゃったの!?」

どこからか噂は広がって教室はその話題でもちきりになった。
人っていつもそうだ。
他人の喧嘩には敏感ですぐに話を聞きたがる。
話を聞いて、悪口を言ったりその喧嘩を止めに入ったり、聞くだけだったり。

あたしにとってなに一つメリットなんてないのに。

「古松、喧嘩したって本当?」

いきなり男子の声がする。
そっか、ハルがいないから男子も近寄ってくるのか。
あたしとハルは公認カップルになってる。
実際は幼馴染だから、一緒にいるだけで深い意味はないのに。
あたしとハルが喧嘩した=破局
みたいなイメージなのかもしれない。

「違うよ、あたしが怒らせちゃっただけ。」

冷たく言い放つ。

怖いのだ、男という存在が。
小学4年生の夏。
ハルとクラスの数人とお泊まりもかねてプールに言ったり映画を見に行ったりした。
そんな体験あたしもハルも初めてで(ハルはずっと本読んでたけど)楽しかったのだ。

プールに入ってさっぱりして、さて帰ろうかってなったときにあたしは男の人に腕を引っ張られていた。
ハルが気づいてくれなかったらと思うと鳥肌が立つ。
男の人はあたしの腕を引っ張って車に乗せようとしていた。
口は手で抑えられていて声が出なかった。
それよりなにより、恐怖で足も手も使い物にならなかった。
ハルがあたしがいないのに気づいて戻って来てくれて助かった。

とにかくあたしの人生にハルが関わっていないことがないのだ。

「なあ、古松。紅葉祭、俺と行かね?」

確かに一人で行くよりは誰かと行った方がいいかもしれない。

「なあ!」
思いっきり腕を引っ張られる感覚。

怖かった。
フラッシュバックする。

顔から血の気が引いた気がした。

パシッとはたく音がして我に返った。
ハルがあたしの手を掴んでいた手をはたいたのだ。
「ルナに触んないで。」

一言、冷たく言った。

「お前、古松の事傷つけといてよくそんな口聞けるな!?最低だぞ!!俺だったら幸せにできる!古松の事理解できる!」

そこまで言った男子の股間にハルが蹴りを入れた。
「ルナの事理解してるならルナが男苦手なのも分かれよ!!!!」
ハルが怒鳴った。
怖い顔で怒鳴った。
あたしのために怒鳴った。

ハルのワイシャツ。
真っ白で眩しいくらい。
暖かくて柔軟剤の匂いがする。

「ルナ、痛い」
「ハル、ハル...ごめんなさい、ごめん、ごめんねぇ...!!」
「なんで、あやまんの。」
「ごめん、あたしが...あたし、ごめん。」

言葉が思うように出て来なくてハルにしがみついて答えを待っていた。

ハルはフゥと息を吐いて、「紅葉祭、行くか。」と言った。

あたしは無言でうなづいた。