考えてみれば
先輩の帰り道は
私とは逆方向。
だから
この駅に先輩がいることは
ないはずで、
意図的にココにいたはずで、
え、でも
用は私なの?
先輩の言葉の意味が理解出来なくて、
グイッと手を引かれたまま
私も歩き出す。
私の傘と
先輩の傘。
その間に繋がれた私達の手。
雨に当たって冷えていくはずなのに
私の手をすっぽりと包む先輩の手が
それを全て受け止めてくれていて、
私には先輩の手の温もりしか
伝わらない。
これじゃ先輩の手が濡れちゃう。
『あ、あの、先輩。
行きますから、
着いて行きますから
手を
手を離して下さい』
『なんで?イヤ?』
『そんなんじゃなくて、
先輩が濡れちゃうから』
『大丈夫だよ』
『大丈夫じゃないですよ』
『平気だよ』
『ダメです、
ほら、
冷たくなってる』
足を止めて
自分の傘を頬で押さえる。
自由になった手を
先輩の手に重ねると
冷えた感触が伝わってきた。
『どうしたんですか、先輩。
今日はなんだか変ですよ』
暖めるように
先輩の手を擦る。
そうしながら
先輩の返事を待つけど、
なかなか返ってこなくて、
視線を先輩の瞳へと向けた。