先輩はそこまで言うと

私をギュッと抱き締めた。

先輩の胸の音を直に感じる。



『佐伯さん、』



ーーー高野、

ーーー高野総司先輩ですよね?


ーーーそうですけど、


ーーーあ、私、後輩の佐伯と言います。


ーーー佐伯さん?


ーーーはい!!

ーーーうわぁ。

ーーー王子様に名前呼ばれちゃった。



『佐伯さん、』



ーーー高野先輩は

どうしてココに来るんですか?


ーーー佐伯さんに逢いたいからだよ


ーーーそうやって

何人の女の子射止めてきたんですか



『佐伯さん、』


ーーー好きだったのは

私だけだったんです。

悔しくて、悲しくて、惨めで、


ーーーうん、


ーーーもう、胸の中穴だらけで


ーーーもう、わかったから、

もう、強がるのはいいから。

佐伯さん、

こっちにおいで。

その穴、俺が埋めてあげるから。

おいで、佐伯さん、



『佐伯さん、』




ーーーなんで隠してたの?

嫌がらせされてるんだろ。


ーーー嫌がらせって

そんな大袈裟なものじゃないですよ。


ーーーじゃなんで頬が赤いの?

やられたんだろ?

俺のせいだろ。

ーーーそうですね、

これは先輩のせいですね。

先輩が素敵過ぎるから

いけないんですね。


ーーーごめん、


ーーー謙遜くらいしたら

どうなんですか?


ーーーごめん、


ーーーふ、ふふふ。

そんなに謝らなくても、

大丈夫ですよ。

私、こんなことでめげませんから。

折角の先輩との繋がり、

無駄にはしたくありません。


ーーー俺も、失いたくない。

佐伯さんを失いたくない。





何度も何度も

先輩が私の名前を呼ぶ。

呼ぶ度に私を締め付ける力が強くなる。

それだけでも苦しいのに、

私の心は先輩との思い出を

胸一杯に広げていく。


先輩

先輩

先輩


隙間なく敷き詰められていく先輩が

私の全てを埋め尽くしてしまったとき、

先輩はまた私と向き合うように

濡れた茶色い瞳で私を見下ろした。



そして驚くように

瞳を大きく見開いた。


『なんて顔してんの?』

『え、?あれ?』

『ねぇ、佐伯さん、

俺、自惚れてもいい?』


『この涙、自惚れてもいいかな』