『離したけど

もう逃げられないね』

『ここは・・』

『俺の家』

『先輩の・・』



先輩は、『そう、うち』

と言いながら私を壁際へと追い込む。

とんっと

背中が壁にぶつかって、

これ以上後ずされないことを知る。


『せ、先輩』

『佐伯さんさ、

俺の話本当に聞いてないよね』



先輩の右手が私の腰へと

まわされる。

腰を抱くように引かれると、

先輩とピタリとくっついた。


『ねぇ、俺なんて言った?』

先輩の悲しそうな瞳が

私の目を見据える。



『俺の勇気踏みにじらないでよ』


『先輩?』



先輩の濡れて冷えた手が

私の頬を撫でる。

指先が私の唇をかすめると

小さな振動が伝わってきた。



震えてるの?



『佐伯さん、』




『これはちゃんと聞いて』



『一人の情けない男からの』



『必死の想いなんだ』