パタパタパタと
傘を打ち付ける雨音にかきけされて
自分の名前を誰かが呼んでいることに
気付けなかった。
『佐伯さん、』
『･･･あ、高野先輩』
私が先輩に気付くまで
何度先輩が私の名前を
呼んだのかはわからない。
でも高野先輩の少し下がった眉は
呆れていますと物語っていて、
『すいません。何度か呼びましたか？』
咄嗟に謝りながら先輩へと駆け寄った。
揺れる傘から
溜まっていた雨粒が落ちて
私の膝を濡らす。
『走らなくていいよ。
ほら濡れちゃってるじゃん』
先輩の前に着くと
先輩の大きな手が
私のスカートについた水滴をはらう。
『あ、大丈夫です。
ハンカチ持ってますし、
もう家に帰るだけなんですから』
『ダメだよ。
女の子なんだから。
ハンカチ出してごらん』
