「……あ」
その開けた場所には、一人の少年が立っていた。歳は十代前半だろうか、少し幼さが残るものの、大人びた雰囲気のある爽やかな印象の少年だった。やや赤みがかった焦げ茶色の髪、およそ男性らしくない白く透き通った肌と華奢な体。腕に抱えられているのはスケッチブックだろうか。端麗な顔には優しい微笑が浮かべられていた。その微笑は、私に向けられている。
私は、動けなかった。温かい雫がぽろりと頬を伝い、地面に吸い込まれていった。それを皮切りにしたように、次々と涙が瞳から溢れ出した。胸が苦しい。懐かしいような、愛しいような、何かを切望するような、嬉しさと哀しさが入り混じったような。そんな、心に渦巻いた形容し難い感情に、私は訳も分からず涙を流した。
ーー私は、この少年を、知っている?
止まるという概念を知らないかの如く、溢れ続ける涙と嗚咽に体の力が抜けた。少年はそれをふわりと抱き留めた。そして、優しく背中を撫でてくれた。何も言わずに、ただ美しい微笑を湛えたまま。
風が吹いた。向日葵が揺れ、その瑞々しい香りが鼻孔を擽った。冷たい雪が頬に触れて、体温に融けていった。
* * *
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
車輪が奏でるリズムが聞こえる。微睡んでいた意識が浮かび上がり、そっと瞼を押し上げた。
微睡みの中から目を覚まし、電車内を見回す。車内には、小さな文庫本を静かに読んでいる少女と、高級そうなブロンド色の杖を携えた老人が居た。
「夢、を、見ていたの?」
なんだかとても不思議で、懐かしい夢を見たような気がする。夢の内容を思い出そうとするも、記憶に靄がかかっているかのように、夢の中で抱いた感情だけが、朧げに思い出されるだけだった。懐かしいような、愛しいような、何かを切望するような、嬉しさと哀しさが入り混じったような、そんな感情だった。
キィー。耳を劈くような甲高い音が響いた。電車が少しずつ速度を落としていく。
『涼風村駅に到着しました』
柔らかい女性の声のアナウンスが流れる。涼風村、それは私の故郷の村の名前だ。自分の座席の側に置いていた荷物を手に取り、向日葵の花束を抱え直し、電車を降りた。
その開けた場所には、一人の少年が立っていた。歳は十代前半だろうか、少し幼さが残るものの、大人びた雰囲気のある爽やかな印象の少年だった。やや赤みがかった焦げ茶色の髪、およそ男性らしくない白く透き通った肌と華奢な体。腕に抱えられているのはスケッチブックだろうか。端麗な顔には優しい微笑が浮かべられていた。その微笑は、私に向けられている。
私は、動けなかった。温かい雫がぽろりと頬を伝い、地面に吸い込まれていった。それを皮切りにしたように、次々と涙が瞳から溢れ出した。胸が苦しい。懐かしいような、愛しいような、何かを切望するような、嬉しさと哀しさが入り混じったような。そんな、心に渦巻いた形容し難い感情に、私は訳も分からず涙を流した。
ーー私は、この少年を、知っている?
止まるという概念を知らないかの如く、溢れ続ける涙と嗚咽に体の力が抜けた。少年はそれをふわりと抱き留めた。そして、優しく背中を撫でてくれた。何も言わずに、ただ美しい微笑を湛えたまま。
風が吹いた。向日葵が揺れ、その瑞々しい香りが鼻孔を擽った。冷たい雪が頬に触れて、体温に融けていった。
* * *
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
車輪が奏でるリズムが聞こえる。微睡んでいた意識が浮かび上がり、そっと瞼を押し上げた。
微睡みの中から目を覚まし、電車内を見回す。車内には、小さな文庫本を静かに読んでいる少女と、高級そうなブロンド色の杖を携えた老人が居た。
「夢、を、見ていたの?」
なんだかとても不思議で、懐かしい夢を見たような気がする。夢の内容を思い出そうとするも、記憶に靄がかかっているかのように、夢の中で抱いた感情だけが、朧げに思い出されるだけだった。懐かしいような、愛しいような、何かを切望するような、嬉しさと哀しさが入り混じったような、そんな感情だった。
キィー。耳を劈くような甲高い音が響いた。電車が少しずつ速度を落としていく。
『涼風村駅に到着しました』
柔らかい女性の声のアナウンスが流れる。涼風村、それは私の故郷の村の名前だ。自分の座席の側に置いていた荷物を手に取り、向日葵の花束を抱え直し、電車を降りた。