ーー駅から出てみよう。
ほんの少しだけ、恐怖に震えてしまう足を一歩、踏み出した。

* * *
「えっ?」
外に出た瞬間、私はさらなる驚愕を覚えた。そこには駅よりも不可解な景色があったのだ。
黄色、黄色、黄色。鮮やかで温かい黄色が、一面を、目に映る世界を覆い尽くしていた。そしてその黄色の正体は、幾百、幾千もの向日葵だった。
鉛色の雲はどこへ行ったのか、空は晴れ渡り、深い橙色へと姿を変えていた。向日葵畑の向こうに、今にも沈んでしまいそうな太陽が見える。太陽は、橙色の空と、広がる向日葵を優しく照らしていた。
そして、何よりも不可解だったのは、そこに雪が降っていたことだ。向日葵畑という、夏らしい景色の中に、真っ白い、桜にも似た雪が、はらはらと舞っては融けていく。時折、さらりとした心地良い風が吹いていった。向日葵と共に、舞い散る雪もふわふわと揺れた。
「きれい……」
あまりにもミスマッチな世界は、だからこそ酷く幻想的で、神秘的で、美しく感じられた。
気づけば私は歩き出していた。向日葵畑の中へと、その向こうへと。
向日葵畑は、まるでその中を人が歩くことを前提にして作られたかのように、歩きやすい間隔で向日葵が植えられていた。向日葵は160センチの私よりも大きいものもあれば、半分ほどしかない小さいものもあった。それでも、大きさは違えど花の美しさはどれも同じだった。萎れたものも、花弁や茎が折れたりしたものも見当たらない。ただひたすらに、美しかった。そんな向日葵の間に舞う雪もまた同様だ。その異常なまでの美しさは、私の中の恐怖や不安などの一切を奪っていった。

どれくらい歩いただろうか。時折頬に触れる雪の心地良い冷たさを感じながら、何も考えずに足を動かし続けていた。
すると、延々と続く向日葵畑の中に、少しだけ開けた場所が見えた。
ーーなんだろう。
そこへ近づいていくと、地面にいくつもの絵の具のチューブが転がっていた。
ーー誰か、いる?