どれだけ泣こうが、どれだけ喚こうが、その事実が覆ることは無かった。
けれど私は、ひたすらにそれを拒絶し続け、受け入れようとしなかった。
彼女が死んだと告げられた時の記憶を無かったことにしようとした。
彼女はまた、明るい笑顔を見せて会いに来てくれると信じた。
そうやって、私は少しずつ、心を閉ざして行ったのだ。
そうでもしないと、心が、崩れてしまいそうだったから。
しかし、自ら作り上げた硬く暗い心の壁が、今、目の前にいる彼女の言葉によって壊された。
到底飲み込めそうにないものを、無理矢理口に詰め込まされたような苦しさが、私を襲う。


彼女は死んだ。死んだのだ。
ならば何故、彼女は目の前に居るのか。
そこに居る彼女は幽霊なのか、はたまた私が幻覚を見ているだけなのか。
私には分からない。

分からない。分からないけれど。
ひとつだけ、確かなことがある。

今、お別れしたら、もう二度と会えないだろう。
ーー今、伝えなければ、もう二度と、伝えられないであろう。


拒絶し続けた現実を飲み込まされ、息苦しさに崩れ落ちそうになる身体に、鞭打つように精一杯の力を籠める。
震える喉。上手く伝えられるだろうか。

「……沙羅、私…」

彼女に聞こえるのかどうかすら危うい程の、小さくか細い、蚊の鳴くような声。
けれどこれが、今の私では限界だった。

「私、沙羅と親友になれて、幸せだった」

幸せだったよ。
もう一度、精一杯叫ぶような声で彼女に言う。苦しい。苦しくて堪らない。
これは、彼女に対する感謝の言葉で在るとともに、別れの言葉でもあるのだ。

ーー涙で霞み、不鮮明な視界の中、彼女がふわりと笑った気がした。

「……私も幸せだったよ、優雨」
「……沙羅…っ!」

その言葉が紡がれると同時に、目の前に確かに感じた彼女の気配が消えた。
慌てて顔を上げると、そこにはーー








まるで、最初から誰もいなかったかのように、セピア色に染まった景色だけが、私の瞳に映っていた。