握られた手は、ひやりと冷たかった。
それは心地良いものではなく、私を突き放すかの様な、胸に刺さる冷たさであった。
私の手を引き目の前を歩くその背中は、今すぐにでも消えてしまいそう。そんな感覚に襲われ、きゅ、と握った手に力を込めると、彼女は一瞬だけ視線をこちらに向け、直ぐに逸らした。

「着いた」
彼女は明るい声を上げ、私の方に振り返り、ニッと笑って見せた。と同時に、繋いでいた手がするりと解かれる。

辿り着いた場所は、街を二つに分けるように流れる川だった。
透き通った水は夕日の光を反射し、セピア色の輝きを帯びている。
ざあざあと静かに辺りに響くせせらぎは、降り注ぐ雨の音を思わせ、儚さを醸し出していた。
ここは、彼女がこの街に住んでいた頃に、2人で学校帰りによく寄っていた場所だ。
「……懐かしいね。ここで、放課後、紗羅といつも話をしていたよね」
「そうだね。楽しかったなあ」
「……」
会話はそれで終わり、静寂が訪れる。
雨音のようなせせらぎと、遠くに聞こえる人々の声が、耳に痛い。
何故だろう。話したい事は沢山あるというのに、言葉が出てこない。
何か話してくれないだろうかと、僅かな期待を込めて隣に立つ彼女を見やる。
彼女は、川の水面をじっと見つめ、何かを考えているような表情を浮かべていた。
「……紗羅?」
どうしたの、と声を掛けると、彼女は慌てたように笑顔を見せ、口を開いた。
「あのね、私ね、あっちで好きな人が出来たんだよ!」
それはあからさまに何かを隠す態度であり、少しだけ引っかかった。
が、彼女が話したくない事なら、それで良い。
「へえ、いいね。どんな人なの?」
「ええと…優しくて、明るくて、でも少し不器用で…とにかく素敵な人なの!」
頬を苺のような紅に染めてはにかむ彼女は、とても初々しく、可憐であった。
羨ましい。こんな輝きが、私にもあれば。
「優雨は?好きな人とかできてないの?」
「できてない」
「本当?優雨は可愛いからすぐ彼氏できそうだよね」
「お世辞言ったって何も出ないよ?」
「お世辞じゃないですぅー!」
あはは、と。2人で声を上げて笑う。
懐かしい。あの頃に戻ったようだ。
古い写真を思わせるセピア色の薄闇が、そんな気分を鮮やかに彩る。
それからは、久し振りに会ったせいからか緊張していたものの、それもすっかり解れ、様々なことをお互いに語り合った。