「久しぶり、優雨」

鮮やかな青色だったはずの空が、オレンジ色の光を帯びた闇に染まる。
人々や建物などがそれぞれ持つ彩を覆い隠すように、その薄闇は街の全てを蝕んでいく。
けれど街を行き交う人々は、自分たちを呑み込む薄闇など気にも止めず、雑踏を作り上げている。私はその雑踏を掻き分け、宛も無くふらふらと歩いていた。
学校帰りなのだが、何故だか真っ直ぐに家に帰る気にはなれなかったのだ。

そんな中、誰かが私に声を掛けて来た。
薄闇に溶けるような、優しく、どこか懐かしい声色。私はこの声を知っている。
振り返ると、セーラー服を着た少女がいた。
腰まで伸びた髪と、ぱっちりとした瞳は、深い闇のような黒。街に広がる薄闇をも呑み込むような、濃い黒だった。
そんな冷たい色とは対照的に、彼女が浮かべる微かな笑みは、美しい花のように柔らかい。
私はしばしその少女の姿を眺め、少女が誰であるかを確認し、驚きの感情を隠して口を開いた。

「久しぶりだね…紗羅」

数年ぶりに口にした、懐かしい友の名前。
少女は、私のかつての親友だった。

かつての親友は、数年ぶりに私に名前を呼ばれたのが嬉しかったのか、太陽のように明るい満面の笑みを浮かべる。
「久しぶりー!会いたかったよ!ねえ、ちょっと時間ある?お話したい!」
声を掛けてきた時の儚げな雰囲気は何処へやら。彼女は、親に一緒に遊ぼうと強請る無邪気な子供のように、私の手を握り締めた。
……丁度、まだ家に帰りたくないと思っていたのだ。それに、数年も会っていない友と奇跡的に再会したのだ。少しくらい話したって良いだろう。
私は彼女の手を握り返し、こくりと頷いた。