「……あたしにとって30は、アンラッキーな数字だよ」


 そう、こいつは悲しそうに言った。



「……俺も。」




 こいつは、俺を見て微笑んだ。



「あたし、叶恋(かれん)。櫻井(さくらい)叶恋。よろしくね、速水くん」



 ……叶恋。


 その名前に、どれだけの願いが込められているんだろうか。



「……あ、まあ似合わないんだけどね。あたしには。恋が叶う…なんてさ」


 こいつはそう言って、寂しそうに笑った。



「……俺のことは、透でいいや。ま、俺も似合ってないけど。透明じゃねぇもん、俺」



 叶恋って名前は、綺麗なこいつによく似合ってる。

 けど、叶わない恋をしているこいつには、似合ってるなんて言えなかった。



 ま、俺は名前に似合わない人間だけど。


 いつも、汚い心でいっぱいだから。




「……ふふっ、あたしら似過ぎ」


「ああ、そうだな」



 俺らは、これから仲良くなるのだろうか。

 また、こうやって喋るのだろうか。


 それとも、もう二度と喋らないのだろうか。