それから、俺は養護施設に預けられた。

 周りに沢山の子供がいて、優しい大人達がいた。


 でも俺は、その人たちと一言も話さなかった。



 俺の心に、ぽっかりと穴が空いた。

 そこを風が、スースー通って行った。



 あとから、養護施設の人たちの話を聞いた時知ったんだけど、俺の父親は、牢屋の中で首を吊って死んだらしい。



 それを知っても、なんとも思わなかった。


 何故だか、父親の顔を俺はもう忘れていた。

 声も、名前も。




『透くんも可哀相にね……。あの父親、取り調べで「あいつなんか子供じゃない」って叫んでたらしいわよ』


 その言葉だけ、俺は覚えている。



 父親にとって俺がどんな存在だったか、それは今も分からない。

 もう死んじまったから、知ることも出来ないけど。


 俺が、大事な子供ではなかったことだけは分かった。






 そんなある日、俺は見知らぬ男と女に会わされた。



 そいつらは、子供がいないらしい。

 だから、俺を引き取りたいらしい。


 俺に話しかける二人を、俺は無視した。

 下を向いて、何も喋らなかった。



 なのに、あの二人は俺を引き取って行った。