「あー、なんか無くなったんだよな」
……この人、全然気づいてないな。
真実は言わない方がいいね、うん。
「そう。えっと……ズボンのポケットのボタンが無い人なんて速水くんくらいだから……気づきました」
「……あ、そう」
話しにくいなあ……。
なんて思ってると、速水くんが言う。
「……じゃなくて。」
「え?」
じゃなくてって、どういうこと?
「なんで俺の名前知ってんの?俺ら、話したことないよね」
「…………。」
え、嘘。
あたしは驚いて、目を丸くさせた。
いやぁ、鈍感にもほどがあるでしょ。
あ、ヤバいな……。
けど、時は既に遅し。
「……ぷっ。ははっ、ふ、はははっ」
「あ゛?」
あたしは、その鈍感さに笑いを堪えきれなくてつい笑ってしまった。