叶恋と過ごしたあの日々は、俺にとってとても大切な時間だったってことに。


 叶恋に自分のことを打ち明けたことも。

 叶恋の涙を見たことも。

 空の話なんかしてみたり、昨日のテレビの話をしてみたり。

 そんな、何気ない時間も。


 全部全部、俺の癒しだった。

 その後にどんなに辛い現実が待っていても、叶恋といると戦う気になれた。


 叶恋が俺の大切な人だってことに、今やっと気付いたんだ。


 ……ごめんな、なんて。

 きっと言っても許してもらえないだろう。


 ……叶恋と会わなくなって、特に変わったことはない。

 でも、俺の心の中の何かが変わったのは、紛れもない事実。



 こんなに、後悔しているなんて。



「……俺らしくねえ」


「……じゃあ、今のお前はなんなんだよ」



 そっと呟いたつもりの独り言だったのに、何故か返事が返って来て俺は声のした方を向く。





 そこには、

「よぉ。独り言かい、青年」

 なんて言って、下駄箱に寄りかかり、右手を上げて意地悪そうに笑う泉田の顔があった……。



「……んだよ、泉田先生」


「いやぁ、意味深な独り言だったなーっと」


「………それで?要件はなんすか」


 俺は肩から落ちかけている鞄を元に戻し、泉田に体を向ける。