だって、だって。

 彼氏いんの?なんて聞くんだよ?


 センセイのくせに。

 奥さんも、中学生の子供もいるくせに。

 勘違いさせるようなことを言ってきちゃってさ。


 そんな質問、教師としてどうなの?

 ってか、人としてどうなの?


 まるで、まるで……あたしのこと、気になってるみたいじゃない。


 そんなこと、ないくせに。

 一ミリも、微塵も、女として興味ないくせに。



 だったらさ、教師でいてよ。

 ずっとずっと、手の届かない存在でいてよ。


 手を伸ばす気にもなれないほど、冷たくあしらってよ。

 背中も見れないほど、遠い存在でいて。



 今のその言葉じゃ、あたし、勘違いしちゃうんだよ。


 もしかしたら、境界線がすぐそこにあるんじゃないかって。

 簡単に、越えられるんじゃないかって。


 そうね、思っちゃうんだよ。

 あたし、馬鹿だから。


 胸がまた、違う意味でチクッて痛くなる。

 あたしはセンセイをじっと見つめたまま、胸を押さえた。


 本当は、顔に出さない方がいい。

 分かってる。そんなこと。


 今まで必死に我慢してたんだから。

 こんな分かりやすい顔しちゃ、ダメ。


 分かってる。分かってるんだよ、そんなこと。