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 時計の針が深夜2時をさした頃、そっと家を抜け出した。
 母親と妹は各々の部屋で寝静まっているのか、いや…例え抜け出す物音に気づいていても…役目を果たし、最早何の価値もなくなったオレの事など、もうどうでもいいのだろう。

 住宅がポツポツ連なる場所を抜け、舗装された道を歩く。
 やがて畦道に変わるにつれ、ただでさえ少ない街灯が消えうせた。
 静寂の闇夜の中、砂利を踏みしめる音だけが響いている。
 暫く歩くと、籠女の社に続く山道に辿り着く。
 そこに懐中電灯を手にした雪が立っていた。

 「…本当に行くのか?」
 問いかける雪の隣に歩み寄りながら、自分も持ってきた懐中電灯を取り出す。
 この山道の中ならば、明かりをつけても村の誰かに見られる事はないだろう。
 道の両隣の木は上で中央に向けて撓り、トンネルを作り上げている。
 それは僅かな月明かりさえも遮断し、完全なる闇をポッカリと作り上げる見事さだった。

 「それはどういう意味の確認?琴音さんの言う事を信じてるのかって事?この見るからに心霊スポットの中にマジで飛び込んで行くのかって事?」
 「………両方かな」
 「………雪は昔から幽霊とかダメだもんな」
 雪は遠い目で黙り込んでいる。
 嘘がつけないところも、強気な性格の癖に幽霊とかが嫌いなとこも、可愛いヤツなのだ。

 霜月の宴会の時程は酷くはないが、頭痛は未だに続いている。
 鬱蒼とした暗闇を進みながら、時々立ち尽くしては額を覆う。

 「その頭痛長いのか?診療所には?」
 「こんなに酷くなったのは最近かな。だからこそ…診療所にも行けなくて」
 「椿の姫の従者になるためだろ?ちょっと体調を崩しただけすぐに篩いにかけられるからな」
 「さっきも言ったろ…オレは従者になりたいなんて思っちゃいないよ。診療所に行かなかったのは、オレを従者にしたい母親と妹にバレたら面倒だから、それだけだ」
 「なるほど…何となくわかってきた。誰にでもヘラヘラして従順なフリしてたのも、従者に選ばれるためなんかじゃない。単に家族にも、霜月にも、他の従者候補の奴等にも、波風たてたくなかっただけかよ」
 
 沈黙を肯定ととったのだろう。
 雪はそれ以上、何かを言う事はなかった。
 
 暫く無言で歩き続けると、黒く揺れる影の様な木の葉の隙間から、遠くに明かりが見えた。
 あれが籠女がいる社なのだろうか…。
 「…いっ!!」
 思わず立ち止まり、額を押さえる。
 ズキリと軋んだ頭に、瞼が引きつる様子を見て、雪が小さく息を吐いた。
 苦笑いを返して、痛みで止めてしまった足を再び前に出すと、雪がすかさずオレの腕を掴み制止した。