その遥か昔…
この姫代村(ひめしろむら)は、小さな国として存在していた。
清めの力を持つ姫巫女━━【椿姫】が守る、清浄で美しい土地だったという。
ある日、その平和の国を脅かす者達が現れる。
鬼の一族だ。
椿姫は愛する男と共に、国を守るため…戦いに身を投じる事となる。
永きに渡る戦いの末、鬼の一族の姫を討ち取る事に成功したのだが…
事切れる前、鬼の姫はこの地に、この地に住む者に、その者達の血に、魂に。
災いが降り注ぐ事を願ったという。
椿の姫は自らの清らかな命を賭して…
この国に降りかかるであろう災厄を、鬼の姫に返したという。
そうして姫の尊い犠牲の上、国の平和は保たれたかの様に思えた。
しかし、魂というものは巡るものらしい。
清らかな姫巫女であった椿の魂も…。
この地の全てを災厄で包み上げようとして、災厄を返された鬼の姫の魂も…。
これまでも…
何度も何度も何度も、巡っているらしい。
鬼の姫の魂を持ち産まれ落ちた女は【籠女】と呼ばれる。
山の奥の社に隔離されて一生を終えるらしい。
己が生んだ災厄に身体を蝕まれる罰(くるしみ)を受けながら…。
その名の通り、【籠の中の女】なのだ。
そして【椿の姫】は、【籠女】から滲み出てしまった災厄を返す役目を担う。
実質、この村での一番の権力者となる存在となって。
くだらない御伽噺じみた伝承に…
未だ縛られ続ける村で━━…。