「おい!有馬ぁぁぁ!おまえ今舌打ちしただろ?!ほんと去勢してやろうか?!ああ?!」
……大人びた佇まいとやらは、何故か奏にだけ例外なわけだが。
私が呆気に取られて目を見開いていると、近くで奏が溜息を漏らした。
渋々といった感じで奏が離れていったので、横たわっていた身体を起こす。
「お…おはようございます、琴音さん」
「おはようございます、籠女様」
鬼の形相が瞬時に微笑みに変わった。
……謎のプロ意識を感じずにはいられない。
苦笑いで琴音を見ていると、小さな足音が近づいてきた。
「姉さんも有馬も何やってるんだよ?早く籠女様連れてきてよ」
足音の主、現れたのは如月綾人(きさらぎ あやと)━━…琴音の6つ離れた弟だ。
姉同様に、つやつやでサラサラな少し青色がかった黒髪。
横に流した長めの前髪から、覗く黒目の大きな瞳。
それを覆っている黒縁の眼鏡を人差し指でクイッと押し上げた。
奏以上に中性的な印象を受けるのは、成長途中な小柄な体躯と、抜けきれていない少年の面影のせいだろう。
「籠女様、今日は顔色が良いですね。体調はいかがですか?」
綾人の登場で始まったのは、琴音の毎朝恒例の健康チェックだ。
「はい。今日はとっても良いです」
その言葉に綾人が無表情のまま、小首をかしげる。
「でもさ、椿の姫が正式に決まった今、これまで以上にいつ体調崩すかわからないよね。ご飯より先にお風呂に入った方がいいんじゃない?」
「…お風呂?どうして?まだ昼間じゃないの?」
壁にかけられた時計を見やると、丁度正午になるところだ。
寝過ぎてしまったせいで、すっかり朝食を逃してしまった。
体調が良い日はもれなくおまけに…食欲までついてくるのだ。
「奏、お腹空いた」
「うん。何が食べたい?すぐ作ってあげる」
「甘やかすな、有馬」
優しく微笑む奏に、琴音がピシャリと言い放つ。
そして溜息交じりに、私の手を取り立ち上がらせる。
「…私と綾人は如月の人間として、霜月の家に行かねばなりません。夜は少しの間不在とさせて頂きます。籠女様、体調を崩された際に…入浴のお手伝いを出来るものが有馬のみとなりますが」
如月姉弟の言葉に、無意識に奏を見やる。
畳の上で足を伸ばして座る奏は私を見てニコリと深く微笑んだ。
「絵真、お腹空いたんだよね?」
「……………」
「ね、絵真?」
「……ごめん、奏。私やっぱりお風呂入る」
「ふぅん…。そう」
「良かったね、有馬。最近、姉さんがネットでよく切れる大きいハサミを買ってたんだ。いよいよ使われる日がくるのかと思ったよ」
今なんか恐ろしい言葉が淡々と告げられた様な。
黒縁眼鏡の奥の、感情を窺わせない黒い瞳は…
真っ直ぐに奏の下腹部あたりを捕らえていた。
……大人びた佇まいとやらは、何故か奏にだけ例外なわけだが。
私が呆気に取られて目を見開いていると、近くで奏が溜息を漏らした。
渋々といった感じで奏が離れていったので、横たわっていた身体を起こす。
「お…おはようございます、琴音さん」
「おはようございます、籠女様」
鬼の形相が瞬時に微笑みに変わった。
……謎のプロ意識を感じずにはいられない。
苦笑いで琴音を見ていると、小さな足音が近づいてきた。
「姉さんも有馬も何やってるんだよ?早く籠女様連れてきてよ」
足音の主、現れたのは如月綾人(きさらぎ あやと)━━…琴音の6つ離れた弟だ。
姉同様に、つやつやでサラサラな少し青色がかった黒髪。
横に流した長めの前髪から、覗く黒目の大きな瞳。
それを覆っている黒縁の眼鏡を人差し指でクイッと押し上げた。
奏以上に中性的な印象を受けるのは、成長途中な小柄な体躯と、抜けきれていない少年の面影のせいだろう。
「籠女様、今日は顔色が良いですね。体調はいかがですか?」
綾人の登場で始まったのは、琴音の毎朝恒例の健康チェックだ。
「はい。今日はとっても良いです」
その言葉に綾人が無表情のまま、小首をかしげる。
「でもさ、椿の姫が正式に決まった今、これまで以上にいつ体調崩すかわからないよね。ご飯より先にお風呂に入った方がいいんじゃない?」
「…お風呂?どうして?まだ昼間じゃないの?」
壁にかけられた時計を見やると、丁度正午になるところだ。
寝過ぎてしまったせいで、すっかり朝食を逃してしまった。
体調が良い日はもれなくおまけに…食欲までついてくるのだ。
「奏、お腹空いた」
「うん。何が食べたい?すぐ作ってあげる」
「甘やかすな、有馬」
優しく微笑む奏に、琴音がピシャリと言い放つ。
そして溜息交じりに、私の手を取り立ち上がらせる。
「…私と綾人は如月の人間として、霜月の家に行かねばなりません。夜は少しの間不在とさせて頂きます。籠女様、体調を崩された際に…入浴のお手伝いを出来るものが有馬のみとなりますが」
如月姉弟の言葉に、無意識に奏を見やる。
畳の上で足を伸ばして座る奏は私を見てニコリと深く微笑んだ。
「絵真、お腹空いたんだよね?」
「……………」
「ね、絵真?」
「……ごめん、奏。私やっぱりお風呂入る」
「ふぅん…。そう」
「良かったね、有馬。最近、姉さんがネットでよく切れる大きいハサミを買ってたんだ。いよいよ使われる日がくるのかと思ったよ」
今なんか恐ろしい言葉が淡々と告げられた様な。
黒縁眼鏡の奥の、感情を窺わせない黒い瞳は…
真っ直ぐに奏の下腹部あたりを捕らえていた。