「……絵真?どうしたの?」
どうしたの?
そう問われたという事は、恐らく奏にはこの異様なモノが見えていないのだ。
むしろ私に過保護すぎる奏が、異様すぎる【彼等】を私に近づける事を許さないだろう。
未だ廊下に立たされている久世鈴矢と天音雪は、酷く怯えている私を見て不思議そうに顔を見合わせていた。
震える手を胸元に当てると、心臓が異常な速さで鼓動している。
このままでは破裂してしまいそうで、大きく深呼吸をした。
それを何度か繰り返し、やっとの思いで落ち着かせ、2人の客人の傍に立つ琴音さんを見上げた。
「…久世君と天音君は…、あの、特に久世君は…どうしてしまったんですか?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
正に【異形】だと思った。
子供の頃の面影を少しだけ残し、随分と大きく、そして男らしく成長した久世鈴矢の身体中に…【何か】が張り巡らされている。
「時近さん、久しぶり」
「うん…久世君…だよね?久しぶり」
部屋に通された久世君と天音君は、私とその両脇を固める奏と綾人君の前に正座している。
優しげに微笑んではいるが、彼の顔色は優れない。
やはり身体中に巻きついている【何か】が影響しているのだろうか…。
「久世君…何ともないの?」
「…あー…やっぱりオレ、何かあるの?」
おどけた様に笑ってみせたが、次の瞬間には観念したとばかりに笑った。
「実は、結構前から頭が痛くてさ。今日突然…琴音さんに呼ばれたんだ」
その言葉に今まで入り口の前で正座し、静かに目を伏せていた琴音が口を開く。
「私と綾人には…かろうじて黒い靄の様なものが鈴矢の身体に巻きついているのが見えます。籠女様にはどの様に見えますか?」
「どのように…ですか…」
ドス黒く、ボロボロに腐り、朽ちている、何か……。
「恐らく…黒く枯れた…というよりは腐ってしまっている…椿の枝が巻きついています。その周りに、元は花や葉らしきものが…垂れ下がってて…」
「恐らくーとか、らしきものーとか、結構曖昧なんだね」
すかさず綾人が言葉を挟んだので、私は真剣な面持ちで頷く。
「久世君だけを見れば…それが何かはわからなかったかもしれない。何か黒い不気味なモノがグルグル巻きついてるっていうだけで。でも、天音君が…」
「は?俺」
突然、話題の矛先を向けられた天音君の顔が怪訝に歪む。
…思えば優しそうな久世君とは違い、天音君の事は子供の時から苦手だ。
彼のどこか威圧的なオーラは、成長した今でも健在らしい。
だが今は、恐れをなして言葉を飲み込んでいる場合ではないのだと思った。
「天音君にも似た様なのが巻きついてる。でも天音君に巻きついている椿は綺麗な状態なの。葉っぱも瑞々しいし、真っ赤な椿の花が一輪咲いてる…。何より久世君程グルグルしてない」
その言葉に、奏以外の全員が驚愕した。
本人達の動揺は勿論の事、如月姉弟はとても神妙な面持ちを浮かべていた。
「そう…ですか。私には雪のまでは見えませんでした」
そう言った琴音さんの声は、少しだけ悲しそうだった。
少しの間、目を伏せて何かを思案した彼女は、やがて静かにこう言ったのだ。
どうしたの?
そう問われたという事は、恐らく奏にはこの異様なモノが見えていないのだ。
むしろ私に過保護すぎる奏が、異様すぎる【彼等】を私に近づける事を許さないだろう。
未だ廊下に立たされている久世鈴矢と天音雪は、酷く怯えている私を見て不思議そうに顔を見合わせていた。
震える手を胸元に当てると、心臓が異常な速さで鼓動している。
このままでは破裂してしまいそうで、大きく深呼吸をした。
それを何度か繰り返し、やっとの思いで落ち着かせ、2人の客人の傍に立つ琴音さんを見上げた。
「…久世君と天音君は…、あの、特に久世君は…どうしてしまったんですか?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
正に【異形】だと思った。
子供の頃の面影を少しだけ残し、随分と大きく、そして男らしく成長した久世鈴矢の身体中に…【何か】が張り巡らされている。
「時近さん、久しぶり」
「うん…久世君…だよね?久しぶり」
部屋に通された久世君と天音君は、私とその両脇を固める奏と綾人君の前に正座している。
優しげに微笑んではいるが、彼の顔色は優れない。
やはり身体中に巻きついている【何か】が影響しているのだろうか…。
「久世君…何ともないの?」
「…あー…やっぱりオレ、何かあるの?」
おどけた様に笑ってみせたが、次の瞬間には観念したとばかりに笑った。
「実は、結構前から頭が痛くてさ。今日突然…琴音さんに呼ばれたんだ」
その言葉に今まで入り口の前で正座し、静かに目を伏せていた琴音が口を開く。
「私と綾人には…かろうじて黒い靄の様なものが鈴矢の身体に巻きついているのが見えます。籠女様にはどの様に見えますか?」
「どのように…ですか…」
ドス黒く、ボロボロに腐り、朽ちている、何か……。
「恐らく…黒く枯れた…というよりは腐ってしまっている…椿の枝が巻きついています。その周りに、元は花や葉らしきものが…垂れ下がってて…」
「恐らくーとか、らしきものーとか、結構曖昧なんだね」
すかさず綾人が言葉を挟んだので、私は真剣な面持ちで頷く。
「久世君だけを見れば…それが何かはわからなかったかもしれない。何か黒い不気味なモノがグルグル巻きついてるっていうだけで。でも、天音君が…」
「は?俺」
突然、話題の矛先を向けられた天音君の顔が怪訝に歪む。
…思えば優しそうな久世君とは違い、天音君の事は子供の時から苦手だ。
彼のどこか威圧的なオーラは、成長した今でも健在らしい。
だが今は、恐れをなして言葉を飲み込んでいる場合ではないのだと思った。
「天音君にも似た様なのが巻きついてる。でも天音君に巻きついている椿は綺麗な状態なの。葉っぱも瑞々しいし、真っ赤な椿の花が一輪咲いてる…。何より久世君程グルグルしてない」
その言葉に、奏以外の全員が驚愕した。
本人達の動揺は勿論の事、如月姉弟はとても神妙な面持ちを浮かべていた。
「そう…ですか。私には雪のまでは見えませんでした」
そう言った琴音さんの声は、少しだけ悲しそうだった。
少しの間、目を伏せて何かを思案した彼女は、やがて静かにこう言ったのだ。