「杏里ちゃんっ」
杏里ちゃんの名前を呼んで、杏里ちゃんに向けてパスを出す。
最初より距離を広げたのに。
少し威力の強くなったボールはちゃんと杏里ちゃんのもとに届いた。
「お! 瑞姫、進歩したね!
この調子で頑張ろうっ」
杏里ちゃんは両手でガッツポーズをした。
トラップも蹴ることも、まあまあできた。
あとは…もっとちゃんと磨きをかけるだけだよね?
それなら試合に出ても少しくらいなら役に立てるかな………。
「…カタチが変」
杏里ちゃんからのボールをトラップしたとき。
後ろから冷たくて低い声が聞こえて、あたしは振り返った。
「……蘭ちゃん」
「そんなんじゃ、出ないほうがマシ」
「ごめ……っ」
「そんな泣きそうな顔すんなら、もっと練習しなさいよ?」
「……うん」
「はぁ。 …ったく、杏里だって教え方が下手なのよ。
足手まといになるから、ほんっと迷惑」
杏里ちゃんは下手じゃない。
そりゃあ、10番を背負う蘭ちゃんには劣るのかもしれないけど。
決して下手じゃない。
「……蘭ちゃん、ひどいね」
「は?」
「下手だけど努力してるの。
わたしだって、杏里ちゃんだって…!
サッカーって…仲間で一緒にやるスポーツなんでしょ?
ひとりじゃ…なにもできないよ」
あ。 わたし、なに言ってんだろ。
口が勝手に動いちゃって……。