「ただいまー!」


 間もなく響いた妹の明るい声が、これでもかと言う程しつこく鼓膜にこびりつく。

 おかえり、と返事をした私とお母さんの声に、直ぐにキッチンに来た彼女は、直ぐに片づけを手伝い始めた。瞬く間に四つのビニール袋は、全て空になる。

 そっとその場を離れようとキッチンのドアノブを引いた私。その後ろで袋を畳む彼女がお母さんからありがとうという言葉を受け取るのを聞きながら、静かに扉を閉めた。


 吐き気が、する。


 自分がどれだけ嫌な人間か、痛い程に思い知らされる。あの場にいたくなくて、急いで逃げ出したのは私自身なのに。

 お母さんは別に、私を叱りはしない。叱らない代わりに、褒めたりもしない。無理をしないでいいの、好きなようにやりなさい、そう言ってくれる。

 それが辛いなんて、贅沢だろうか。突き放されることも無いけれど、その代り私には何も求められることが無い。

 何をやっても上手くいかない私に、呆れているのだろう。私だってそんなことは分かっている。

 けれど、諦められてしまった自分が楽で嫌で、私を諦めたお母さんが優しくて憎くて、そして何より。私を諦めさせたあの子が有り難くて邪魔だった。


「……う、」


 傷を負った獣が巣に逃げ帰るように、迷いなく部屋のベッドに飛び込む。そうして布団にしがみついて、ある筈のない温もりを探して。

 何度だって思う。私は、


 ―――求められたい。