一度食せば鉄の味は掻き消え、僅かばかり気が緩んだ。美味しい、そう口にすればありがとうと返される。


「……そう言えば、芹人」


 紅梅色、という言葉から浮かんだ他の花。ショッキングピンクの花弁の主張を、私には汲むことができなかった。そしてそれを、彼も知っていたのだ。


「あの、石楠花の意味……あと、何で私が取ってた意味が分かったのかも……」


 答えたくなければ答えなくて大丈夫だと、慌てて付け加えた。ここで不都合を強いて機嫌を損ねるのが恐ろしくて。彼が何度不安を拭ってくれても、それは心の奥底から新たに生まれて、表面に染み出してくる。

 そんな私の様子を、数秒観察するような目で見た後、彼は口を開いた。


「……美波ちゃんさ、花言葉調べるために図書館に行ったでしょ?」


 何故知っているのかなど聞いても始まらない。恐らく顔には出てしまったけれど、言葉としてはぐっと堪えて続きを待つ。焦らすように続きを食す様子を見て、私も止めていた手を動かした。

 その咀嚼の最中を狙ったかのように、続きを紡ぐ。急いで呑み込もうにも、口の中で容赦なく広がるパスタは確り噛まなければ、喉に絡みつきそうだった。


「そこで美波ちゃんが読んでた本を後から僕も読んだんだけど、石南花の花言葉は威厳一つしか書かれてなかった」


 そう。探している情報はピンポイントで、あまりにあれこれ書いてある本は運ぶのが億劫なだけ。そう考えた私が選んだ本に書かれていた石楠花の花言葉は、威厳の一つだけ。

 それにしても、私が読んでいた本なんて、どうやって特定したのか。もし近くで見られていたのなら、彼の姿が一切過去の記憶にない私は間抜けすぎる。