「……料理、上手いんだね」


 小さい折り畳みテーブル越しに向かい合って、片手間に炊飯器に放り込んだご飯と共に、肉じゃがを食べる。

 その程度を表現するまでの語彙がないのが惜しいのだけど、本当に美味しい。毎日だって食べたいくらいだ。


「そう?まぁ高校の時とか自分で弁当作ったりしてたから、苦手ではないつもりだけど……。美波ちゃんは割と慣れてないよね」


 遠慮なく刺された言葉に、思わず俯く。

 確かに私はキッチンに立つ機会が少なく、あまり料理に慣れていない。しかし私だって、好きで料理をしてこなかった訳ではないのだ。


「……美波ちゃん?」


 ふいに黙り込んだ私を心配したのか、私の顔を覗き込むように背中を丸めた芹人。ハッと顔を上げるも、この表情への言い訳も何も思いつかない。


「大丈夫?」

「あ……ご、ごめん。大丈夫」


 話を誤魔化すように、再び箸を動かし始める。彼はもう、何も聞かなかった。


 脳裏を掠めた、家族の顔。考えてみれば、私は昨日家から突然いなくなったのだ。

 心配……している筈もないか。しかし届けくらいは出していても、おかしくないかもしれない。

 家族への期待より、彼に対する心配の方が大きかった。もし捜査だ何だとことが大きくなり、彼が捕まったら。

 いや、これが私の意思だと主張すれば、誘拐でなく失踪という形で処理されるだろうか。とはいえ私が彼にそこまで義理立てする理由もない。