「何この量。もう今月買い物行かないつもり?」

「確かにこれだけ買ってたらもう必要ないかもね。牛ロースが安かったから、今日はステーキだよ」


 大きいビニール袋に四袋の食材を、一人二袋ずつ持ってキッチンまで歩く。先程の石楠花の鉢植えもかなり重かったけれど、此方も馬鹿にならない。寧ろ鉢植えより重い。


 現在三月下旬、丁度学校は春休み。だけど、私が家にいるのはそれ故という訳ではない。

 何だかんだで、後二週間もすれば新年度、一学期がまた始まるのだ。そう、私もみんなと同じように、進級する筈だったんだ。筈、だったのに。


「ちょっとお母さん。オートミール買いこみすぎじゃない?」

「いいのいいの、どうせ直ぐなくなっちゃうんだから。もうグラノーラも切れかけだし」


 黙っていると、お母さんの前でまで変なことを考えてしまう。なるべく意識を切り離そうと、意識してか否か、やたら口が動く。

 時計を見ると、もう午後六時。そろそろあの子がピアノ教室から帰ってくる頃だろう。早く片付けを終わらせないと。

 気持ちは急いても動きには大した影響はない訳で、いつもと特に変わらないペースでキッチン周りの棚や冷蔵庫に袋の中のものが収まっていく。そうこうしていると、再び玄関のドアが開いた。