緩く覚醒する意識、瞼越しに差す光を感じる。あぁそうか、ここは彼のベッドの上。

 外出するようなことを言っていたけれど、まだ戻っていないのだろうか。

 私が逃げる可能性は危惧しなかったのか、眠っている間に何かしら拘束を受けるということもなかったようだ。


「……おなか減った…」


 寝る前に全て戻してしまったため、胃の中は恐らく空。流石に応えるらしく、悲鳴を上げて訴える。

 せめて飲み物くらいと冷蔵庫を開け、躊躇いながらも麦茶のボトルを取り出した。

 流しの傍にあるまだ乾ききらないコップを手に取り、麦茶を注いで一気に飲み干す。

 ボトルを庫内に戻した後、逆に胃に物を入れたのは失敗だったろうかとどこかで思いつつも、ベッドに戻る。

 眠ろうとまで思っている訳ではないけれど、特にすることもないのだから仕方ない。

 退屈さが体内で飽和して、吐息と同時に口から溢れそうだ。退屈しのぎにそんな比喩を心中でなぞっていると、玄関の鍵だろうか、金属音が私の耳に届く。


「ただいま。…ちゃんと、いる?」


 恐る恐るといった様子で、私に問うた声。暇を持て余した私は、言葉で答えるより先に、それが聞こえてきた玄関のあるであろう方へ向かった。

 それまでに聞こえてきた、ビニール袋の擦れる音や、重い荷物を置いたような鈍い振動。そこから察するに、スーパーにでも行っていたのか。