まぁ、一先ず私の四肢は自由を得たのだ。早速遠慮なく身体を伸ばし、全身の筋肉を解す。

 好きなように動けるということがこんなにも幸せなのかと、人生で最も強く思った瞬間だった。


「……朝食に、しようか」


 一通り全身解れて、さてどうするかと彼を見る。視線がかち合って数秒の沈黙を経た後、そんな提案があった。


「何にするの」


 確かにお腹が減っていない訳ではないけれど、かと言って量が入る訳でもない。ものによっては、事前に少なめにして欲しいと頼む必要がある。

 純粋にメニューが気になったという理由も勿論ある。寧ろ先程の理由は建前程度のもので、此方が本心だったかも知れない。

 然して食べられないものがある訳ではないけれど、好物くらい私にだってある。それを所望するつもりは無いにしても、偶々出てきたら嬉しいものだ。

 まぁそもそも、この人が料理をする人なのかさえ謎なのだけど。昨日のカレーは具から察するに手作りだったのだろうけど、


「朝は時間が無いから、炒り卵とパンとサラダで我慢出来るかな。正午過ぎには帰ってくるから、そしたら好きなもの作ってあげるよ」


 ここまで言える程なら、そこそこの料理技術は持っているのだろう。少なくとも私以上には。

 などと、自分で思っておきながら勝手に傷ついて。正しくは、傷口に塩を塗ったとでも言うのだろうか。