その後間もなく此方の部屋へ戻って来た彼は、ベッドに横たわる私を眺めて、何か考えている。一瞬まさかと思い流石に焦ったけれど、どこか違う様子。

 そうだ、と小さく呟いて、私の身体を抱き起した。そのまま抱えて床に降ろし、ベッドの柱に凭れさせる。


「どうするの?」

「…心配?」


 愉快そうに忍び笑いを零す彼に否定の言葉を向ければ、まぁ落ち着いてと宥められる。

 少々気が立った言い方になってしまったのは悪かったけれど、此方は精神以前に身体が悲鳴を上げているのだから仕方ない。

 そんな私には果報とも取れる質問が、次の瞬間降ってくるとは、思いもせず。


「例えば、この縄を解いたら君は、逃げ出すの?」


 一体何の意味があるのだろう。結果として逃げ出すことを選ぶ子だとしても、ここで馬鹿正直に頷いたりはしないだろう。

 固よりそのつもりはないのだけど、答えを聞いたところでどうするつもりなのか。意のままに首を横に振ったところで、信用されるかも怪しい。

 次の瞬間、私の目の前で屈んだ彼の手が、私の頬に伸びた。頬と言うのは語弊があるだろうか、輪郭から首筋まで、緩く広げた掌から指先までが触れる。


「答えて」


 やたら真剣な表情で急かす彼に、一言逃げないと告げたけれど、彼の双眸は私のそれを捕らえて離さない。物理的に掴んでいる訳でもないのに、不思議だ。