「え…何で……?」

「だから、そのままじゃ一人で食べられないでしょ。僕が食べさせてあげるから」


 顔が引き攣る。この歳にもなって、誰かに食べ物を口まで運んでもらうなんて、そんな願望でもない限り屈辱でしかないだろう。

 だが現実的には、このような不平不満を言っている場合ではない。彼の言った通り私の胃が空腹を訴えているのは事実だし、まだ腹の虫は鳴らないまでも、寸前には来ている気がする。


「分かった……」


 ここは潔く折れて、大人しく口を開いた。スプーンに掬われて口元へ、そして口内へと入るカレー。

 大き目に切られたジャガイモが、お母さんの手伝いとして妹が切ったそれを彷彿とさせて、それだけで苦しくて堪らない。


 感情ごと噛み潰すように、動かす気力もない顎を必死に使って咀嚼し、何とか呑み込む。味は悪くない筈なのに、一口食べるごとに、それに釣り合わない食欲の減り方。

 それを表に出さないように、やっとのことで一皿食べ終えたところで、全部食べてくれてよかっただなんて安堵の笑みを浮かべる彼。

 そうして漸く自分の皿に手を付けたのを見て、何となく胸が締め付けられるような、そんな思いがした。


 結局それから間もなくして彼は諸々の用を済ませ、私は拘束を解かれないまま、部屋の電気が消された。

 普段彼が使っているであろうベッドに、一人で横たわって。


 今更思い出す、絞められた首に残った痛み。