結局返答をしなかった私に構わず、加熱終了を告げる音とほぼ同時に開いた扉から取り出されたカレーの皿を、未だ身を拘束されたままの私の前に置いた。

 再びキッチンへと戻った彼は、また何かを加熱している。それを取り出し此方へ戻って来た彼の手元には二皿目のカレーがあり、私は眉を顰めた。


「ん?…あぁ、二皿用意されてたのが引っ掛かったんだよね。明日の分にと思って用意してただけだよ、君が今も生きているのは、あくまで予定外だから」


 優し気に相好を崩すその様子は、この異常な空間さえ差し引けば好青年とさえ思えるものだろう。それがこんなにも、薄気味悪く感じるなんて。

 私の顔正面に座った彼から視線を外し、間近のカレー皿に移した。しかし見続けるのみで、食することはない。

 確かに、何か入っているのではないか、などと疑いを持ってはいるが、手を付けないのはそのためではない。


「あぁそっか。その状態じゃ、食べるに食べられないね」


 誰のせいだと思っているのだろう。…まさかそんなことを口走る程考え無しではない。黙って次の彼の行動を待てば、私の肩を支えて上半身を抱き起す。

 勿論それは彼一人の力ではなかったのだけど、だからといってどうということでもない。このままでは食事も取れないのだし、一先ず従っておこうといった具合だ。

 斯くして現在私と彼とは向かい合って座っている訳だが、結局私の四肢は碌に使えないままである。これでどうやって――


「じゃ、口開けて」


 思わず耳を疑った。先程よりずっとよく見えるその笑顔は、それでもなお柔らかい。