潤んだ瞳で自分を見上げるリュティアの表情に浮かぶ苦悩。それを、自分はよく知っているような気がした。だがまさか、とカイは否定する。否定するよりほかないではないか。

それでもカイの心の中で激しい感情がぶつかりあった。期待する心と、否定する心。胸の鼓動がうるさいほどに脈打つ。

意味を知りたい。

次にリュティアの唇がわずかに震え、澄んだ声が押し出されるまでの時間は、永遠のように感じられた。

「あなたのことが好きです…こんなに、苦しいくらいに…」

カイはリュティアのその声を、どこか遠い異国の言葉のように聞いた。

ただ目を見開き、…愕然とする。

リュティアの告白。それはいつかのリュリエルと同じ告白だが、カイはそれを知らない。だが魂は覚えていたのだ。それでなくて、どうしてこんなにカイの心を揺さぶるだろう。

「…リュー…？　何を言って……」

「私は…！」

リュティアの瞳から美しいしずくがぽろぽろとあふれ出る。

しずくと共に言葉が、あふれ出る。

「私はあなたの、花嫁になりたい…！　それ以上の願いなど、今の私にはありません。私をあなたの、花嫁にしていただけませんか」

この時ほどカイが驚いたことは、なかったろう。

この時ほどカイが自分自身を遠いと感じたことはなかったろう。

カイは自分が自分でないような、どこか遠くから自分を見下ろしているような気分になった。

―本当にこの言葉を聞いているのは自分なのか？