いや、ストーカーするような奴もいないと思うんだけど…



そうは思ったけれど口には出さず、父の煙草が短くなるのをじっと待つ。



「まぁ、明日から早速そいつを頼むで…お前の好きなようにこき使って構わん、腕は確かやでボディガード代わりくらいにはなるやろ?女に手を出すような奴には見えんかったが、万が一何かあったら言いや」




全て始めから言うことを決めておいたような口振りだった。父は私が断らない(断れない)のを最初から見越していた。





「あー、それから」




父が珍しく少し言いづらそうに言葉を詰まらせたので、少し驚きながら顔を見上げた。




「…いや、余計な世話やな。何でもあらへんわ」





私の顔を真っ直ぐ見詰めていたけれど、すぐに横を向き煙草を灰皿に潰して立ち上がった。






「じゃあ頼むな。必要になったら懐いた頃に引き取りにくるわ」






仮にも人の話なのに本当に犬の話でもしているような口振りに少しの呆れを感じる。




「うん、わかった。早めにね」







去り際にそう呟くと、父はおう、と野太い声で返事をしてゆっくり出て行った。