「やだ、奏人くんだ」

クスクスとバスに乗っている女の子たちが窓の向こうでバスと追いかけっこしている奏を見て笑う。

頑張れーっと手を振られ、にこやかに手を振り返していくうちに、奏は信号に捕まり、見えなくなっていった。


「本当に馬鹿」

女の子たちの声援にデレデレしちゃってさ。


なんで奏を好きなのか真剣に分からなくなってくる。

ちょっと離れれば、女たらしで馬鹿で計画性ないし、目立ちたがり屋だし悪口はすぐに出て来るのに。

いざ目の前にすると、胸がドキドキしちゃうんだから自分の気持ちがよく分からない。








バス停で降りて、家までの坂を下ると、太一の家から人影が出て来るのが分かった。


「美緒ちゃん?」

「あ、良かった。深雪ちゃんだ」


ほくほくした笑顔の美緒ちゃんに駆け寄ると、紙袋を渡された。

「中身何?」

「へへ。御守り用の布! 見たらすぐに分かるよ! お母さんももう要らないから深雪ちゃんの好きにしてって」


「へー。ありがとう」

タオルぐらいの重さだから何かの布かな?

「あとね、お願いがあるの!」

「うん?」