「ごめん! 他の人に聞いて!」
「え――!?」
「持ってくるの忘れたの!!」
逆切れして乗り越えようとしたら、宿題プリントを目の前に差し出してきた。
「英語の宿題なんだけど、凛ちゃん先生の似顔絵が上手く出来たから見てもらおうとしただけ」
奏の名前の横に、確かに眼鏡の凛ちゃんの姿が描かれている。
――眼鏡にちょっと目つきが悪いのも似てるけど。
「見ていいよ。俺、分からない単語に赤ペンで書き込みしてるから読みやすいだろうし」
「奏……」
「遠慮すんなって。来週からの期末テストは深雪に期待してるんだからさ」
てへっと可愛らしく笑うと、前の席に勝手に座り、下敷きを取り出して、仰ぎだした。
せっかく見直しかけてたのに、これなんだから。
また期末もウチに来て勉強するつもりなのか。
目の前で眠られたらすごく邪魔なんだけどな~。
「深雪もたまにはこんなミスしないとな」
「なんでよ!」
むっと睨むが、奏は屈託のない笑顔で下敷きの風にそよがれている。
「完璧だと、俺、際限なく甘えちゃうだろ?」
――甘えてくれていいのに。
私しかいないぐらい甘えてくれていいのに。
気づいて欲しくて。
でも気づかれたら、この関係も終わってしまう気がして。
この距離から動けずにいた。