「左ひざ、無理したらいけないんでしょ?」
「あ……はい」
私の膝は確かにあの最後の試合で皿が割れてしまい、未だに激しい運動は出来なかったりするけど。
「あっ」
そう言った直後のくせに、私は体育館に向かって走り出していた。
中学最後の試合で、相手の選手に引っ張られるように地面に倒れ込んだ私は、膝を強打していた。
蹲って、痛みに耐えるように丸まっている私を、抱き上げて車まで運んでくれたのは、太一だった。
今でもはっきり思い出せる。
グラウンドの土の匂いと、しっとりと濡れた太一の力強い腕を。
『深雪!』
奏も駆け寄ってくれたんだけど、多分授賞式が残っているからと、太一が止めてくれたはず。
私は膝の痛みと、最後まで仲間と試合が出来なかったショックから涙が止まらなくて。
あの時の記憶は二人の私の名前を呼ぶ曖昧なことぐらいしか思い出せないでいる。