球場内が浜松高校へ賞賛の歓声を挙げる中、私はひっそりと球場を後にする。


ファンファーレが流れて、スピーカーから流れ反響して聞き取りにくいけど、太一の声が聞こえてきた。


『今日の日を、仲間と、先生と、友人と、家族と、毎日のように夢見ていました』

柔らかい、落ちついた太一の声。


『今日がゴールじゃなく、始まりの日に慣れたのは、今日までを応援してくれた皆のおかげです。
戦友たちの甲子園への思いを馳せた試合を勝ち進んだ俺たちは、甲子園に行くだけで満足しません。そんなの、今日の日を胸に頑張ってきた同じ思いの皆に失礼だ。

狙うなら、甲子園でも優勝です』

太一の言葉に球場内は沸き上がった。
真っすぐな、裏も表も無い太一の声に私は嬉しくなる。

『今日、御守りのお陰でつまらない事を考えなくてすみました。腐らずに済みました。
大切な、何処に居ても、誰を選んでも、幸せならそれでいい。離れても、心はずっと傍にいてくれるから』


ざわっ


広がる黄色い声に、太一は『以上です』と、言うと、きっと深々とお辞儀をしたんだと思う。


甲子園で優勝するまで、きっと太一は、きっと涙を見せない。

それまでは私も彼をずっと支え、応援したいと思う。

強く大地を蹴りあげながら、走る走る走る走る。