既にタッパは開けられて、半分以上は無くなっていた。
試合で熱気が窓から逃げない状態だから、多めに作って来て良かったかもしれない。


「太一、同点になってからずっと投げてるらしいな」

ペットボトルの水を飲み干しながら奏は言うと、ごしごしと口を拭う。

「え」

「向こうのチーム、試合中なのに色々と話してるんだよ。それだけでざわめくなんておかしくない?」

奏の言葉に、私もつい向こうの応援席へ走ってしまった。


「誰か、野球の情報知ってる!?」

何人か同中の子が居たので、そこまで怪しまれずに済んだけど、少しざわざわとされた後、一人の一年生がジャージのポケットから携帯を取り出した。

消音でこっそりとみていたらしい。


大事なチームの試合で……。

と思いつつもその携帯を覗きこんだ。


太一は肩が痛いのなんて微塵も表に出さないで涼しい顔で投げている。


泥だらけのユニフォームで大きく腕を振り上げる姿。
会場は一丸となって向こうを応援しているのに。



「試合、始めるぞ!」

先生の声に、スコア表をベンチへ取りに走ろうとした時だった。