「お、トイレ遅かったな」

「馬鹿」

家に戻ると、啓と奏がゲームで対戦していた。
さっさと帰って復習ぐらいすればいいのに。

スマホで向かい合って盛り上がっているのが、さっきの太一との時間と温度差を感じすぎてちょっと悔しい。

自分の部屋から単語帳を持って降りると、奏の背中に全体重を乗せて単語帳を開いた。


「みみ、深雪?」

「動かないで、ソファ」

動揺する奏の背中に貼りつきながら、そう言うと奏は身体を強張らせた。

ごめんね。きっと恥ずかしいだろうけど。


でも今は、奏から離れたくないの。



嘘なら私も奏についてるよ。


奏が好き。


――でも、太一の心も離れて欲しくない。


嘘をついていたのは、私なのかもしれない。

奏への気持ちを応援してくれていた時は、太一の心は私にあったから。



――涙を堪えたくて、そっと上を見上げながらぼやける単語帳を見続ける。

私は最低な奴だ。



自覚したら止まらない。