「私に関わらないでよ……お願いだから、」
たったひとりを想って生まれた私の世界を、乱さないで。変えてしまわないで。
夢の中まで逢いに来てくれるのは、いっくんだけでいい。
「ごめん」
届いた声に少しだけ顔を上げると、地面についた膝が見えた。その片方の上に、また拾われたらしい写真や郵便物があったけれど、込み上げるのは怒りの向こう側にあるものだった。
「拾い忘れたんだと思って。余計なお世話になるとは思わなくて」
ええっと、その、と。言葉を探す様子から戸惑っていることが伝わる。
もういいです、って言わなくちゃ。
存在が不可解でも、彼は善意から写真を拾ってくれただけなんだから。どうして私が写真を拾わなかったのかも、どうして見たくなかったかも、知らないんだから。
いらなくても受け取って、投げつけてごめんなさいって、言わなくちゃ。
思考は働くのに体が動かない。
見目形を知っただけで。いっくんの妹を見ただけで、こんなにも。私の脳は彼女の姿をしっかり焼き付けて、夢に見る準備を始めている。
「俺はただ、なんていうか、落とし物を届けてもらえたら嬉しいってことしか、考えてなくて」
くしゃり。かすかに聞こえた音に目を向けると、骨ばった手の中にある封筒が少しだけ折れ曲がっていた。
「ごめん……きみが喜んでくれるんじゃないかって、期待してた」
ゆらりと顔を上げる。目が合って驚いたのはストーカーのほうだけで、どうしてか、開けた口でもごもごと妙な形を作っていた。