「――っ!」

自動ドアが全開するのも待たず外へ飛び出すと、三段ある上り階段に足を引っかけて転んでしまった。おまけに写真を投げつけてやろうと思った相手はいなくて、


「なんなの、もう!」


寂寞とした深夜の道路に私の声だけが響いた。


行き場のなくなった苛立ちとじくじく痛む膝の擦り傷に、強く唇を噛むことしかできない。

やっぱり、私はもう、別の道に立たされているんだ。どうにかこうにか生きてきた3年間とは違う今。司さんと再会して、変な男に目をつけられて、何より大切な人の妹の顔を知った。


こんなこと、望んでなかった。


世界から隔絶されたような場所で疎まれ、畏怖の対象だった頃の記憶が強烈に残ったままでも。同時に、異常と囁かれるほど愛されたことも、それがどれほど幸せなことだったのかも、私の中に深く刻まれている。

『ハル』

喧騒から逃れるように縁側に腰掛ける、着物の背中。綺麗に切りそろえられた癖のない髪の毛。なんでも見透かしてしまう物憂げな瞳。

今にも消えてしまいそうな雰囲気をまといながら、惹かれてやまない不思議な存在感を放つ人。
包むように私を抱き上げ瞼に口づけしてくれる、大好きな人。


『ハルが生まれるの、ずっと待ってた』


いっくんが見つめ、求める全てが、私の世界だった。

それでよかったのに。


「大丈夫!?」


突然現れて駆け寄ってきた姿は、的にしか見えなかった。写真も、この想いも、ぶつける的。

だけど地面に膝をついたままの私はひしゃげた写真と郵便物を一緒くたに投げつけて、睨むことしかできなかった。それもまた、すごく弱々しいものなんだろうって、ストーカーが眉を下げたことで思った。


なんでいるの。どこにいたの。どうして私につきまとうの。みんな、みんな、勝手だ。