ノートを閉じる。微笑みを向けた先で、翠がいつか見たような表情を浮かべていた。


「掃除しておくから、遊びに来てね」


腰を上げると「ついでにご飯も作ってあげるよ」と返ってきた。


やっぱり翠は心配性で、とても優しい。働かせたであろう勘を口にされることなく、私たちはいつも通り過ごし、今日も電車の中で別れた。




全く視線を感じない1日は、濁った青空を見上げたときの気分と似ていた。晴れているのに透き通っていない。なんだかとても、微妙な気持ち。


視線がないからって後をつけられていた事実は消えないわけで、存在を知ったとしても受け入れられるわけじゃない。


不信感。恐怖心。拒絶。疑惑。この、肺のあたりから喉元までへばりついたような何かを正しく言い表すことができない。


バイト帰りに遠回りをしてまで寄ったコンビニから出てすぐ、左右に伸びる歩道へざっと視線を巡らせてみる。カップルらしい一組が遠目に見えただけで、深夜1時を回った住宅街は確実に眠りへと落ちていた。


チカチカと今にも途絶えそうな街灯の下を通り過ぎる。使い慣れていない道は小さな発見がいくつもあったけれど興味を惹かれることはなく、例のゴミ捨て場側に出る帰り道だということだけが頭にあった。


私は同時に別々の人から後をつけらていたってことになるのかな。


自称ストーカーと、司さん本人もしくは雇われた人。どれが誰の視線だったかは判別できなくとも、気分のいいものではない。立ち止まってしまった足を動かしたくないほどには、げんなりする。