初めて2人で迎える朝。

瑠里は朝食を作っているところだ。

流二はというと、
瑠里の横にいた。


「…流二さん?」

「何?」

「何?じゃなくて、危ないです。あっちでいつもみたいにテレビ観てて下さい。」


瑠里は集中出来ないまま隣の流二が気になって仕方ない。
じーっと見つめられながら料理はしづらい。


「テレビ観るより瑠里を見てたい。」

「…え?」


隣の流二を見上げて、瑠里は言葉に詰まる。
流二の瞳が熱い。
瑠里は戸惑い、流二から目をそらす。

もう頭の中が真っ白で自分が何を作っているのかも訳が分からない。
自分の体が自分のものじゃなくなったみたいだ。
緊張で指も震える。


そうこうしながら、少し切りすぎてしまったキャベツの千切りをトマトと一緒にお皿に盛り付けようとすると、ふいに後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「瑠里…」

意味もなく自分の名前を呼ばれる感覚は心地いい。

瑠里が頭だけ振り返ると流二と視線が合わさった。
流二の瞳には何の迷いもなく瑠里が映っている。


瑠里の顎に優しく流二の手が周り、上を向かされた。
そのまま流二の瞳が近づいてくる。
嫌だと言えばすぐにやめるつもりなのだろうか、ゆっくりと伺うように見つめられた。

瞳を閉じれば唇に降りてきた優しい感触。
流二の優しさが丸ごと全部つまったようなキスだった。

何度も角度を変えてキスをしていると、トースターの間抜けな音が鳴った。

流二は、瑠里の腰を支えて抱き寄せたまま頭をひと撫ですると、視線で瑠里に大丈夫か尋ねてくる。
瑠里にとって久しぶりのキスは驚くほど衝撃的で溶かされたように頭がぼんやりとしていた。

瑠里は体を流二から離すと、少しふらふらしながらトーストをお皿にのせてテーブルに置くと、先ほど完成したサラダを並べる。

「流二さんは先に食べてて。今卵とベーコン焼くから。」

だが、流二は台所を出る気配は全くない。
瑠里から離れたくないというオーラをひしひしと感じる。

「いい。瑠里と一緒に食べたいし。」

流二がわがままの様な事を言うのは珍しい。
昨日で更に親密になれたからか流二の雰囲気が今までよりも砕けたようだった。

それから一緒に朝食を食べて、のんびりと休日の朝を過ごした。

外で休日に出かける事はあっても、部屋でゆっくり過ごしたことは今までなかったのでどうしていいか分からず瑠里は落ち着かない。

そんな瑠里の気を知ってか知らずか、流二はずっと瑠里を後ろから抱きしめたままテレビを眺めている。

「今日はたくさん瑠里とキスしたい。」

…………!?

いきなりの爆弾発言に瑠里は緊張で心臓が飛び出そうだった。

ストーカーになってしまった元彼しか知らない瑠里にとって、キスでさえも数える程しか経験がない。


それをずっと憧れていた流二から懇願されて、クラクラしてどうにかなりそうだ。

「大丈夫。今日はキスしかしないから。ゆっくりでいいから少しづつ覚えていこうな?」

優しく甘い声。
男を感じさせる色気に瑠里はもうされるがままとなってしまった。


まさに"野獣"だ……

瑠里はそう思いながらも流二のキスを受け入れた。



****,



それからというと、流二は2人でいる時には自然に瑠里にキスをするようになった。
少しづつ段階を踏むように、瑠里が無理をしていないかいつも確かめながら。


今日もいつも通り流二は瑠里を部屋まで送り届け、そのまま部屋へと上がる。

まず扉を閉めると、靴も脱がずに軽くキスをされるのにも慣れた。


最近は週末になると余程予定がない限り流二は泊まっていくようになっていた。
今日も泊まっていいか確認されたので、休日を2人で過ごせる事が瑠里は嬉しかった。


お風呂からあがるとのんびりと2人でテレビを見て眠くなったらベッドへ向かう。

2人で寝るには少し窮屈ではあるが、それも瑠里は嬉しかった。


ベッドへ入ると流二のキスが始まる。
優しく、労わるように触れられて、もっともっとと言いたくなる。

流二の手が布団の下で瑠里のパジャマを捲りあげたのが分かった。

不思議と流二にされることを怖いと感じたことはない。
いつでも瑠里を気遣ってくれているからだろう。


優しく撫でるように胸のラインをなぞっていく。
瑠里はくすぐったくて身をよじりながら笑ってしまう。

しばらくそうしていちゃついている時間が瑠里にとって当たり前のように受け入れられるまでになっていた。

「……流二さん、大好き。幸せ。」

瑠里言葉に流二が目を見張る。
その後、ゴクリと流二の喉が鳴る音が聞こえた。


「…あのね、私もう大丈夫だよ。今日は最後までして欲しい…です。」


流二がぎゅっと瑠里を抱きしめる。
「無理だと思ったら早く言えよ。」
流二が囁くと、瑠里は嬉しそうに頷いた。




2人は幸せそうにキスを交わす。
長い夜が始まるのであった。