2人で夕食を食べることが当たり前になってきた頃、瑠里は"明日は飲み会があるから。"と言ってきた。
お互い飲み会に参加することは度々あったし、流二は"分かった。"と言いながらハンバーグをモグモグと食べる。
明日は瑠里の夕食は食べれないのか。と少しションボリする流二。
「飲み会終わったら迎えに行こうか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう。」
「分かった。何の飲み会?」
「同期のメンバーで飲みに行こうってなったの。」
流二は瑠里の話を聞きながら頷く。
瑠里の同期のメンバーは瑠里の話から大体把握している。
瑠里は飲み会の時はいつもタクシーで帰っているようなので今回も特に心配ないだろう。
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次の日の夜、流二は適当にコンビニで買った弁当を食べ、テレビを観ながらゴロゴロしていた。
今日は金曜日。明日は仕事も休みだ。
そろそろ風呂に入って寝よう。
流二はシャワーを浴びた後、髪を拭きながらリビングに戻ると携帯に着信履歴を知らせるためにピカピカ光っていた。
確認すると、瑠里からの履歴だ。流二は何かあったのかと瑠里に連絡する。
すると、電話に出た相手の声は瑠里の声ではなかった。
「あ、倉崎さんですか!良かった、繋がって。」
「あの、あなたは?瑠里に何かあったんですか?」
「私、瑠里の同期の鈴木です。」
「ああ、鈴木さんですね。いつも瑠里から話は聞いてます。」
鈴木千代子は瑠里が同期の中でも特に仲の良い友達だと聞いている。
「はい。あの、瑠里が酔っ払っちゃって今まともに歩ける状態じゃないんですよ。倉崎さん、申し訳ないんですけど瑠里を迎えに来てもらってもいいですか?」
「分かりました、お店は?」
鈴木から店名を聞くと、会社の近くにある繁華街にある店だった。
流二も行ったことのある店だったため、すぐに支度をして車に乗る。
念のためお酒を飲んでいなくて本当に良かったと思いながら流二はなるべく近道をしながら店に向かった。
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「あ、倉崎さん、こっちです!」
お店に入ると鈴木にもたれて気持ち良さそうにニヤニヤしている瑠里がいた。
「え?流二さん…?何で?」
瑠里は流二に気がつくと、にこーっと笑って流二に手をのばす。
「迎えにきたよ。帰ろう、瑠里。」
流二は瑠里の前まで行くと、瑠里の手を取って立ち上がらせた。
流二は、お酒が入ってテンションが上がっている瑠里の同期達にはやし立てられているのも気にせず飲み会メンバーへ礼を言うと瑠里を抱きかかえる。
「鈴木さん、今日はありがとうございました。」
「いえ、瑠里がこんなに酔っ払うの初めてで。私も飲むの止めたんですけど聞いてくれなかったんです。」
「瑠里、仕事で何かあったんですか?」
「私も、分からないんです。でも、最近少し悩み事があるみたいでぼーっと考え込んだりしてて。」
「…そうですか。それじゃ、失礼します。」
流二が瑠里を連れて帰る姿に、同期の女性陣はキャーキャー騒ぐ。
「やっぱり、倉崎さんカッコイイよね~。私服姿初めて見たけど更にカッコイイ…。見た目冷たそうなのに優しいとことか男らしいとこも本当に"野獣"って感じ!」
「分かる分かる!倉崎さんってガタイいいから王子っていうよりは、美女を守る野獣って感じする!」
「そうだよね!瑠里もやっと良い人に出会えて私達も安心だよ~。」
女性陣から向けられる自分達の噂は流二の耳には届かないままであった。
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「瑠里、着いたぞ。」
「ん……。」
流二は瑠里の部屋まで着くと、瑠里のカバンから鍵を取り出して開ける。
瑠里は流二におんぶされながら半分寝ている状態だ。
「流二さん……」
「何。」
「怒ってる?」
「怒ってはない。心配した。」
「…心配?」
「鈴木さんから連絡あって。瑠里に何かあったのかもって。」
「ごめんなさい…。」
瑠里は、流二の首に巻き付けている両腕に少し力を込めた。
流二は瑠里をベッドに運んで降ろそうとするが、瑠里はそのまま流二から離れようとしない。
瑠里と流二はベッドに座ったまましばらくその状態でいた。
「瑠里、何かあったのか?俺には相談出来ないこと?」
「………。」
「無理に話さなくてもいいけど、溜め込み過ぎて今日みたいに飲み過ぎるのは良くないぞ。」
おんぶしていた時のように後ろから抱きつく形で流二の首筋に頭を埋めたままの瑠里。
流二は息をつくと、ポンポンっと瑠里の頭をなでてやる。
すると、瑠里は静かに話し出した。
「流二さんは、私に告白したよね。」
「そうだな。」
「どうして?どうして私だったの?」
流二はうーんと唸ると言った。
「何だかほっておけなかったから。瑠里がこれ以上変な男と付き合うのを見てられなかったから。」
「どうして、そう思ってくれたの?」
「…なんでだろ。瑠里は確かに見た目は可愛いと思う。俺も瑠里の事可愛いなって思ってたし。
でも、中身は普通の女の子だろ?なのに、普通の恋愛できないなんて可哀想だなって思うようになって。勝手に気にかけるようになって。
気付いたら、俺が瑠里を幸せにしてあげたい、してあげられたらなって、思うようになってた。」
瑠里は少しの間黙っていた。流二はそのまま寝てしまったのかと思っていたら、瑠里は躊躇いながらも自分の過去を話してくれた。
「…流二さんも知ってるかもしれないけど、私、大学時代ストーカーされてた経験があるの。」
瑠里はトラウマについて、その夜初めて流二に話した。