そのあとの授業は、私だけでなくクラスのみんなが落ち着きがなかった。
昼休みに学園の王子と呼ばれる桜夜先輩が来たからだろう。

私は授業中、ずっとハンカチを見続けていた。折角離れられたと思ったのに…。


『桐…。このハンカチあげるわ…。だから……』


ああ…もうあれから何年たったと思ってる。あれから10年。まだ私の脳内にちらついてくる。

もう、止めて。

やめて

ヤメテ。


「ちゃんと離れるから、もう、止めて」


私は私自身の中にいるお母さんにそう訴えた。
遠くでお母さんがあざ笑ってる声が耳元で聞こえる。

授業中であるにも関わらず、ゆっくりと意識の奥深くに落ちていった。









「桐、起きろ。もう放課後だぞ」


優しい声が聞こえてゆっくり目を覚ますと、四季が私の前の席に座ってた。それに周りにクラスメイトも、來もいない。
あ、さっき四季が放課後って言ってたな…。
でも來がいないなんて珍しい…。

「來は彼氏と帰るって、放課後デート」

四季は呆れたような、でも嬉しそうな声でそういった。

來は一個上の小百合真琴先輩と付き合っている。高校入ってからすぐに付き合い始めたみたいだ。お嬢様キャラは先輩と絡んでても出てるらしい。
あの子も色々あったから、幸せそうでよかった。

「仲良しだね」

私は寝ぼけた声でそう言った。四季は軽く笑って答える。

「だな。…っし、桐!私らもデートしようぜ!」


……は?